セブン&アイの買収のこと
セブンと言えば、日本の流通業界における超優良企業である。そのコンビニ事業は極めて完成度が高く、長年にわたり練り上げられたオペレーションは世界最高水準にあるだろう。
そんなセブンが近年、株主からの提言の的になっている。過去にはアメリカのバリューアクト・キャピタル、最近ではカナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールだ。
前者はいわゆるアクティビストファンドだが、後者はガチの買収提案である。結局、クシュタールは自ら提案を取り下げたが、この一件を「外資が日本の優良企業に余計な口を出してきた」…という感情的な反発を覚えた方も少なくなかったのではないか。「日本のセブンの方が絶対的格上なのに…」と。
しかし、果たしてそれは正しい見方だろうか。昨年8月に提案以降、セブンの創業家側が、「非上場を目指す」と言った、いわば究極の口封じ策とも言える対応にでた。一方でクシュタール側はグローバルな成長戦略を掲げていた。セブン側はあたかも積極的な打ち手を避けているように見えるが、実のところ、確実に稼げるコンビニ事業の存在が、果断な意思決定をためらわせているようにも映る。。
現状維持に終始する防戦型の経営を続ける会社は他にもいくらでもある。その点セブン側も手をこまねいていたわけではなく、そごう・西武・ヨーカ堂を切り離し、コンビニ事業に集中を図るなど一定の構造改革には取り組んできた。しかし踏み込み方の程度やスピード感は、グローバル基準からみれば不十分であると資本市場は見ているのだろう。グローバルリーダーを目指すクシュタール側からすればセブンの米国事業や卓越したオペレーションは、極めて魅力的だったはずだ。
それに対する答えが「非上場化」とはいささか残念である。自分たちの戦略がクシュタールの提案よりも、長期利益創出において優れていると経営陣が信じているのであれば、株主総会で堂々と大演説し、クシュタールに対し逆買収を提案するくらいの気概が欲しかった。クシュタール側が「この経営陣とは話にならない」と判断し提案を撤回したのであれば、セブンの未来には不安が残る。
【文責:飯沼新吾/プロフィールはこちら】